【第2回】平成医療改革31年史

【第2回】平成医療改革31年史

都落ち?

長年、都心の大学病院に勤務し、それなりの肩書を持って、内科診療の第一線で活躍していた医師が、新任教授とそりが合わず、その教授から「地方病院に出向せよ」という命令を受けました。その医師は、教授の指示に従うのをやめて、開業しようと決断しました。そして、都心のビルの一室を借りることになりました。そのビルは大きなビルで、上層階には上場している大企業が入っています。
最低限の診療機器は必要と考え、心電図、胸部レントゲン撮影機、超音波検査機をリースしました。新しいクリニック、新しい院長の誕生です。

大学病院を離れて診療することを、「地域医療に従事する」と表現します。院長の心の中には、「俺も地域医療に従事する一医師に成り下がったか」という思いがあるかもしれません。

頭痛患者が来た!!

そのクリニックに、一人の患者が訪ねてきました。「頭痛がひどいのです」と訴えます。院長の脳内は次のようなものです。
「頭痛といえば、ほとんどは筋緊張性頭痛か血管拡張性頭痛。そのどちらかなら投薬で十分。まれに、脳腫瘍、脳動脈瘤、クモ膜下出血の超初期状態があり得る。その可能性がありそうな場合は、MRI検査が必要だな」
院長は患者の話を聞きながら、病名を分析検討していきます。

筋緊張性頭痛は肩こりの延長のようなもので、後頭部の筋肉が凝って、それが頭蓋骨表面の筋肉に波及したものです。単に、「緊張性頭痛」というのが最近の傾向です。鎮痛剤で痛みは治りますが、筋肉が凝ってしまう大元の生活改善は必要で、そのための指導を行います。「パソコンを見続けるのはやめて、ときどき体操でもしなさい」などは、その指導の一環です。

血管拡張性頭痛は、頭蓋骨表面の血管の一部分が膨隆して、そこから痛みを発します。拍動性の頭痛をして感じることもあります。遺伝性ですので、両親のどちらかがその頭痛で悩んでいなかったかどうかを尋ねたりもします。これも治療は鎮痛剤の投与ですが、この血管拡張性頭痛は、研究が盛んな病気です。院長は脳内で、一瞬次のようなことを考えます。
「そういえば、大学病院に残っている後輩医師のあいつ。この病気の特殊な治療方法を研究していたな。紹介してみようかな。いや、あの後輩はちょっと生意気な奴だったから、紹介するのはやめよう。長い付き合いになりそうな患者を失うのはもったいないし」

重い病気が潜んでいるかも

院長は、患者からどんどん話を聞いていきます。患者は次のように話します。
「朝起きた時に頭痛がするのですが、起きて動き出しているうちに頭痛がおさまっていて、午後には消えていました」
院長は考えます。
「それは、脳腫瘍や脳動脈瘤で有り得るパターンだ。検査する必要がある。大抵はそのようなものはなく、何もなくてよかったですね、という結果になるけど、まれに検査して見つかることがある。放置して大きくなって大事態になれば、訴えられる恐れもある」
そこで、さらに院長は考えます。
「MRIの検査を行わなければいけない。となると、その検査機器を持っている病院に紹介するしかない。しかし、検査が終わったら、速やかに患者を返してもらいたい。紹介した先でその後の治療を進めるより、私の手元で治療を続きを行いたいものだ。何せ、大抵はMRI検査を行っても異常なしになり、以後は定期的に通ってもらって、薬を出していくだけだからな。この患者を失うわけにはいかない」
また、心の奥底では、次のようにも考えます。
「あの病院で検査を行ってもらえばいいだけなのだけど、あの病院にいる医師はたいした能力ではない。経歴的には俺の方がはるかに上で、俺の方が熟練している。今後は、俺が診てあげた方が患者のためだ」

重大かもしれない!!

そのようなことを考えている最中に、その患者は次のように話しました。
「でも、今日は違うのです。朝からとんでもなく頭痛がひどいのです。午後になっても治りません。涙が出てくるほどの痛みです。こんな痛みの経験はありませんでした」
その瞬間、院長はドキリとします。
「脳動脈瘤の破裂兆候ではないか。つまり、超初期のクモ膜下出血だ。これを見逃したら、帰宅する途中にも倒れて死んでしまうかもしれない。そうなると、家族は確実に訴えてくる。紹介して、その患者が戻ってくるかどうかなど考えている場合ではない。緊急手術さえ必要な可能性があるから、脳外科の緊急手術ができる病院に大至急紹介しなければ」

医療機関に3系統あり

さて、院長はこの患者の診療の過程で、3系統の病院群を連想しました。一つは、特殊な治療方法を研究していて、その治療成果を研究業績的に集めたい大学病院です。もう一つは、ビルの中の普通の診療所では行えない検査の依頼先となる病院です。そしてもう一つは、緊急手術を行なえる緊急型の病院です。
大学病院が緊急型の病院を兼ねていることも多いのですが、それなりに大きな病院で、脳外科医を備えていて、緊急手術が可能な病院もあります。

最前線クリニック、地域医療支援病院、特定機能病院、そして・・・

医療機関は、昭和の年間に無秩序に乱立したので、平成初期の頃は、患者を紹介する依頼先の病院を院長の個人的人脈に頼っていました。しかし、平成の31年間の間に、厚労省が中心となって、病院群が分類され、日本の医療社会全体が患者の融通に関して、一つの仕組みを設ける路線が進みました。

研究活動を盛んに行い、最新の治療を取り入れて、医療そのものを前進させていくことを使命づけている病院。それらを「特定機能病院」と名付けることにしました。小さなクリニックが、検査や苦手分野の患者の診療などで依頼する病院(そこそこの規模)を、「地域医療支援病院」と名付けることにしました。

さらに、「たらいまわし」などで社会問題になった緊急病院を解決するために、それらの病院群に対して緊急医療体制を調査し、一次、二次、三次に分類して、高度な医療を緊急的に実施できる病院に対し、「三次救急指定病院」の称号を与えることにしたのです。